2018年11月23日金曜日

童話「舞い降りた神様」


舞い降りた神様

マミちゃんは勇気を出して、いつも通りすがりに見ているケーキ屋さんに入りました。
ショーケースに並べられているケーキは、どれも高そうでした。
初めて一人でするお買い物です。自分の持っているお金で買えるかどうかわからなかっ
たので、心配だったのです。
まだ小さいマミちゃんは、おこずかいというものがなくて、ポケットの中には今まで使
わないで大事に貯めていた百円玉が2枚と50円玉が2枚、それに10円玉が8枚入って
いるだけでした。
制服を着た若い女性の店員さんが、入ってきたマミちゃんを見て「いらっしゃいませ」
と声をかけました。
「あの~、“けえき”を一つ下さい」
緊張して固くなっているマミちゃんに、優しく「どんなのがよろしいですか?」と言い
ながら、「一人なの?ママはどうしたの?」と尋ねました。
「あのね、今日はママのお誕生日なの。いつもマミの分しか買わなくて、自分は食べない
ママにプレゼントしたいの。真っ赤なイチゴが乗っているのがいいの」と、一所懸命に話
しました。
店員さんは、小さな女の子がお金を沢山持っていないことは解っていましたので、一番
値段が安いものを取り出しました。
「480円でございます」
マミちゃんは、ポケットの中で握りしめていたお金を1枚ずつガラスケースの上に並べ
ました。でも、百円たりません。
「ごめんね。これではお売りできないの」と、店員さんは自分が悪いわけでもないのに謝
って、とても気の毒そうな顔になりました。
お店の主ではないので、おまけするわけにはいかないし、自分もアルバイトしてお金を稼
いでいる身なので、立て替えてあげるわけにもいきません。
中に居てやりとりを見ていたお客さんたちも、きっとお母さんは一人で働いてマミちゃ
んを育てているのだと想像できましたが、マミちゃんの気持ちを考えると、お金を出して
あげることはとても失礼なことになると思って困っていました。
マミちゃんは小さいけれど、自分の持っていたお金ではそのケーキが買えないことはよ
くわかっていました。
「すみませんでした」と言って引き返そうとしたのですが、悲しくて涙が溢れました。
それで、入り口のマットにつまずいて転んでしまい、お金はそこらじゅうに散らばってし
まいました。
中にいたお客さんたちが全員駆け寄ってきて、一人のおばちゃんは転んだマミちゃんを
抱き起して、擦りむいた膝小僧を、ハンドバッグから取り出した真っ白なハンカチで手当
てしましたし、他の人たちは散らばったお金を拾い集めるのを手伝いました。
外にまで転がってしまったお金を探し出したのは、若いお兄さんでした。
「さあ、これで全部かな?数えてみてご覧」といいました。
それから、お兄ちゃんはお花屋さんなんだよ、これはお母さんに上げてね」と言って、
持っていた赤いバラの花束を渡しました。
マミちゃんがお金を数えてみると、百円玉が1枚多かったのでした
「百円多いのだけれど」とマミちゃんが正直に言うと、みんなが口を揃えていいました。
「きっと、最初からポケットの底に隠れていたんだよ」
そして、「これでケーキが買えるね。きっとママが喜んでくれるね」とにこにこ顔で言
いました。
マミちゃんは、みんなに「ありがとう」と、ていねいに頭を下げてお礼をいいました。

店の外に出ると、太郎おじさんが通りかかって声をかけました。「おっ、マミちゃん一
人でお買い物か」
太郎おじさんはママの弟で、いつもマミちゃんを可愛がってくれます。
「おじちゃんね、いま天使様が舞い降りて助けてくれたの」と、ケーキ屋さんでの話をし
ました。マミちゃんはそれがどんなことかわかっていたのです。
おじさんはそれを聞くと「ケーキはマミの分がないのだろう?おじさんの分も一緒に買
おう」と言ってケーキ屋さんまで引き返し、中に残っていたお客さんたちにも丁寧にお礼
を言いました。

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