2017年6月17日土曜日

童話「舞い降りた神様」

マミちゃんは勇気を出して、いつも通りすがりに見ているケーキ屋さんに入りました。
ショーケースに並べられているケーキは、どれも高そうでした。
初めて一人でするお買い物です。自分の持っているお金で買えるかどうかわからなかっ
たので、心配だったのです。
まだ小さいマミちゃんは、おこずかいというものがなくて、ポケットの中には百円玉が
2枚と50円玉が2枚、それに10円玉が8枚入っているだけでした。
制服を着た若い女性の店員さんが、入ってきたマミちゃんを見て「いらっしゃいませ。」
と声をかけました。
「あの~、“けえき”を一つ下さい。」
緊張して固くなっているマミちゃんに、優しく「どんなのがよろしいですか?」と言い
ながら、「一人なの?ママはどうしたの?」と尋ねました。
「あのね、今日はママのお誕生日なの。いつもマミの分しか買わなくて、自分は食べな
いママにプレゼントしたいの。真っ赤なイチゴが乗っているのがいいの。」と、一所懸
命に話しました。
店員さんは、小さな女の子がお金を沢山持っていないことは解っていましたので、一番
安いものを取り出しました。
「480円でございます。」
マミちゃんは、ポケットの中で握りしめていたお金を1枚ずつガラスケースの上に並べ
ました。でも、百円たりません。
「ごめんね。これではお売りできないの。」と、店員さんは自分が悪いわけでもないのに
謝って、とても気の毒そうな顔になりました。
お店のあるじではないので、おまけするわけにはいかないし、自分もアルバイトしてお
金を稼いでいる身なので、立て替えてあげるわけにもいきません。
中に居てやりとりを見ていたお客さんたちも、マミちゃんの気持ちを考えると、お金を
出してあげることはとても失礼なことになると思って困っていました。
マミちゃんは小さいけれど、自分の持っていたお金では買えないことはよくわかってい
ました。
「すみませんでした。」と言って引き返そうとしたのですが、悲しくて涙が溢れました。
それで、入り口のマットにつまずいて転んでしまい、お金はそこらじゅうに散らばって
しまいました。
中にいたお客さんたちが全員駆け寄って、一人のおばちゃんは転んだマミちゃんを抱き
起して、擦りむいた膝小僧を、ハンドバッグから取り出した真っ白なハンカチで手当て
しましたし、他の人たちは散らばったお金を拾い集めるのを手伝いました。
外にまで転がってしまったお金を探し出したのは、若いお兄さんでした。
「さあ、これで全部かな?数えてみてごらん。」といいました。
マミちゃんが数えてみると、百円玉が1枚多かったのでした。
「百円多いのだけれど。」とマミちゃんが正直に言うと、みんなが口を揃えていいました。
「きっと、最初からポケットの底に隠れていたんだよ。」
そして、「これでケーキが買えるね。きっとママが喜んでくれるね。」とにこにこ顔で言
いました。
マミちゃんは、みんなに「ありがとう」と、ていねいに頭を下げてお礼をいいました。
店の外に出ると、太郎おじさんが通りかかって声をかけました。「おっ、マミちゃん一人
でお買い物か。」太郎おじさんはママの弟で、いつも可愛がってくれます。
「おじちゃんね、いま天使様が舞い降りて助けてくれたの。」と、ケーキ屋さんでの話を
しました。マミちゃんはそれがどんなことかわかっていたのです。
おじさんはそれを聞くと「ケーキはマミの分がないのだろう?おじさんのぶんも一緒に
買おう。」と言ってケーキ屋さんまで引き返し、中に残っていたお客さんたちにも丁寧に

お礼を言いました。

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