2017年5月20日土曜日

読み聞かせ童話「お蚕様」

人は、自然の中から繊維(せんい)というものを見つけ、それを布にして役立ててきました。
木綿綿(もめんわた)からはモメン糸を紡ぎ、麻の木の幹からはアサ糸を紡ぎ、カラムシと
いう草の茎(くき)や、日本では芭蕉(ばしょう)というバナナの木からも繊維を取り出し
ました。
細くて短い繊維を紡いで糸にし、それを布に織って、着物にするまでには、お百姓さんや職
人さんの地道な努力がなくてはできません。
動物から採る絹(きぬ)というのもあります。
絹織物(きぬおりもの)は、光沢があって肌触りもよいので、高級なものとして扱われてい
ます。これも織物になるまでには大変な手間がかかるのです。
キヌ糸は、おカイコ様がクワの葉っぱを食べて育ち、サナギになるときに口から吐き出す細
い糸を何本もより合わせて作ります。
絹糸は大切なものでしたから、それをつくるカイコは、「お」と「さま」をつけて呼ぶほど
大事にしました。

カイコは家蚕(かさん)とも呼ばれ、家畜化された昆虫で、野生には生息していません。
しかも、カイコは他の動物とちがって決して野生に戻ることはできないのです。
餌がなくなっても逃げ出すことはありませんし、体の色が目立つ白色であるので、外に出た
ら鳥などに食べられてしまうのです。
人間が飼いやすいように改良(かいりょう)してしまったのです。
例えば、カイコを野外の桑にとまらせても、ほぼ一昼夜のうちに捕食されてしまうか、お腹
のところについている脚の吸盤(きゅうばん)の力がよわいので、地面に落ちてしまうのです。
ですから、平らなところに餌となるクワの葉をおいて、人がめんどうをみてあげなくてはな
らないのです。
それは仕方ありません。人間がそうしてしまった責任があります。
お蚕様を育てる農家のひとは、繭(まゆ)ができるまで、つきっきりで世話をします。
最初は、ゴマつぶほどの卵です。
孵化(ふか)といってたまごからかえると、黒い小さな虫がでてきます。
ムシャムシャと葉っぱを食べて段々に白い虫になり、何回か脱皮(だっぴ)を繰り返して大
きく育つと、体の色が透き通ってきます。
そうなるともう餌は食べず、じっとしていますが、口から細い糸を吐き出して、自分の体の
周りにマユを作ってサナギになります。
キヌイトは、サナギが蛾になるまえにお湯で煮て柔らかくして取り出します。

中に残ったサナギは「ヒビ」と言って、栄養価の高いたべものとして喜ばれます。

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