2017年5月11日木曜日

童話「猿酒を飲んだ天狗」

むかしむかしのず~とむかし、山は豊作でした。食べきれないほどの木の実が実りました。
猿が、たわわな山ぶどうを食べながら考えました。
「そうだ、冬になって食べ物が少なくなったとき、これを貯めておいて食べればいいんだ。」
猿は、いい考えだと思い、山ぶどうの実を集めると、大きな木の穴を見つけ、そこに入れて
おくことにしました。
しかし、猿智慧がはたらいてしまって、栗やクルミやドングリの方がお腹がふくれるという
ことで、そちらに夢中になり、いつしか山ぶどうのことは忘れてしまいました。
何年かして、また山ぶどうが実るころ、猿はむかし山ぶどうをため込んだ木の穴のことを思
い出しました。
そこに行ってみると、木の実はどろどろに溶け、何やら変な臭いがしていました。
「さて、これはどうしたものだろう?」と考えたのですが、一向にいい知恵は浮かびません
でした。
高い山の峰から峰へと空を飛んでわたる天狗がいました。羽団扇を一振りして風を起こして
飛ぶのです。
高い鼻をして、ぎょろぎょろ光る眼をした天狗は、鼻ぺちゃな猿にとっては恐ろしいもので
した。その頃の天狗は、高い空を飛ぶこともあって、そこは寒いので、今のように赤くはな
く白い顔をしていました。
ある日天狗が空を飛んでいると、下界からとても良い匂いが高い鼻にただよってきました。
何だろうと思って降りてきた天狗は、木の穴に溜まっている赤い水を見つけました。
「猿酒」と後に呼ばれるようになったお酒です。
一舐めしてみると、とても良い味がしたので、次から次へと掬って飲み続けました。
猿は木の陰から見ていたのですが「それは俺のものだ。」とはいいませんでした。
何故かと言えば、食べられるか飲めるかもわからないので、天狗に毒見をさせようと思った
からです。
飲み続けた天狗は、顔が真っ赤に変わり、あらかた飲みつくした頃には気分がよくなったの
か上機嫌で飛び去っていきました。
「しまった。俺が先に飲めばよかった。」と猿は思ったのですが、猿酒は底の方にわずかに
残っているだけでした。
それでも、猿の顔は少しだけ赤くなりました。

天狗の顔は真っ赤で、猿の顔は少しだけ赤くなったのは、それからです。

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